2016年10月21日金曜日

チャロバの言葉から考える「人事を尽くして天命を待つ」

 コンテのもとでチャンスを掴みかけているチャロバ。数年来の有望株だった彼がついに花咲かんとしている姿を見るのは本当に嬉しい。その彼が見事なアシストを決めたレスター戦後に語った言葉がとても印象的だった。


せっかくなので訳しました。原文はこちらから。

‘I’ve had a lot of loans – some that were good and some that were bad – but out of all the loans I’ve had, I’ve tried to learn as much as I could from them and I think that’s helping me now,’ he said.

‘If you’re a youngster at Chelsea you always have to believe you are good enough, however many loans you have, because you never know what might happen. If you work hard, keep believing and at the right time you’re in the right place, you get your chance.

‘I think the manager is trying to give all the young players and Academy graduates an opportunity. At the minute everybody at the club is working together and doing the best we can.

‘I hope I get more chances. All I can do is try and do my best in training and see what happens.

「たくさんのローンを経験してきた、良かったものもあれば上手くいかないものもあった。でも、経験したすべてのローンから最大限学べることを学ぼうとしてきたし、それが今になって自分の助けになっている。」

「チェルシーの若手であるならば、幾多のローン移籍を経験していていようとも、常に自分自身に対し十分に力があるのだと信じる必要がある。何が起こるのかは決して分からないからだ。懸命に励み自分を信じ続けていれば、しかるべき時にしかるべき場所でチャンスが訪れる。」

「監督は若手やアカデミー卒の選手たち皆に機会を与えようとしてくれている。今、このクラブでは全選手が共に励み、ベストを尽くそうとしている。」

「もっとチャンスが得られるといいね。自分にできるのは練習からベストを尽くすことに努めること、あとは成り行きを見守るだけだよ。」


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 先に断わっておく。まだ実ったわけではない。やっとトップでのスタート地点に立っただけ。それでも、ここまでの道のりは長かった。期待が大きかった分、余計に長く感じたのかもしれない。

 チャロバは13歳でイングランドU16代表としてデビューし、15歳でトップチームの公式戦でベンチ入りを果たした。11/12のプレシーズンでトップ帯同も経験し、2012年に17歳でプロ契約を結んだ。12/13シーズンのワトフォード(当時2部)へのローンでは42試合に出場し昇格プレーオフ決勝進出に貢献した。しかし、この後の3年間は奮わなかった。14/15では昇格組のバーンリーでプレミアに挑戦するも全くと言っていいほどチャンスはなく、半年で2部のレディングへ移る悔しさも味わった。

 だが、15/16のナポリへのローンが一つの転帰となった。奮わなかった3年間の中でも、特に出場機会には恵まれなかった。それでも、ナポリでの1年は彼にとって多くのものをもたらした。ローン担当コーチのニュートンは、サッリのトレーニングによって彼は戦術的に頭もスキルも飛躍的に伸びたと語る。実際にナポリの試合を見たが戦術的に統率された魅力的なフットボールをしていると感じたし(それ以来時間がとれれば見ようと思った)、練習でも33種ものセットプレーを用意したとかドローン2機を用いてリアルタイムで守備陣形を修正しているとか、これはと思わせる情報がいくつも出てくる。
 加えて、ナポリというチームは常に彼の味方でいてくれた。シーズン中にチャロバの母親が亡くなられた際、クラブは1年のローンでやってきた1人の外様のために試合前に黙祷を行ってくれた。その翌週には、ゴールを決めたメルテンスがベンチのチャロバのもとに一目散に駆け寄ってくれた。このチームだったからこそ、チャロバは僅かな出場機会に不満をこぼすことなく成長できたのではないだろうか。ナポリを離れる時、チャロバはナポリの街をMy Cityと呼び、過ごした8か月は生涯忘れないと綴った。

 そして、このタイミングでチェルシーにやってきたのがイタリア人のコンテだ。これがチャロバにとって追い風となった。先述のニュートン曰く、サッリと過ごした時間がコンテのもとで通ずるものが多いそうだ。そしてついに、コンテが彼をトップデビューさせてくれた。プロ契約を結んでから4年半が経ち、初めてトップのベンチに座ってからは実に6年後のデビューとなった。


 チャロバの話をしすぎた。本題は、若手登用の話だ。自分は多少はローンや若手の選手のことを追っているつもりで、その中で若手がチャンスを掴むには実力だけではなく運のようなものも不可欠だと考えている。もちろんこれはよく言われていることなのだが、ずっと上手く自分の言葉で説明できずにいたところでチャロバがそれを体現してくれたと感じ、書き記しておこうと思った次第だ。

 『しかるべき時、しかるべき場所』 これがキーワードだと思う。しかるべき時が訪れるタイミングは誰にも予見できない。チャロバもこれだけ待たされ、ナポリでの1年とコンテ就任がブレイクスルーとなってやっとデビューを果たせた。ここに至るまで実に英2部では84試合(昇格プレーオフを含めると87試合)、英世代別代表での合計出場数は87試合に上る。他の例を挙げるならば、クルトワはアトレティコで3年過ごした。マティッチは、一度はクラブを追われるもポルトガルで成長を遂げ復帰へ繋げ居場所を確保した(最近再び手放しそうになっている気もするが)。

 そして、しかるべき場所。ここ数年、多くのタレントがチェルシー以外の場所でそのタイミングを迎えた。そもそも論だが、空白がない限り場所が空くことはないのだ。ルカクを例とすると分かりやすい。トーレス、デンバ・バ、エトーとの競争を嫌ったルカクが武者修行を選択するも、帰ってきたらコスタ、レミー、ドログバにライバルが変わっていて入り込む余地がなくなっていたことは記憶に新しい。チャロバとコンテの出会いのように、監督もまた重要なファクターだ。しかるべき場所は各人各様、結果論でしか語ることができない。

 何が言いたいかというと、しかるべきタイミングの決定において本人の能力は前提条件ではあるがあくまで1要素であり、個人に依らない部分の介在を見過ごしてはならないということだ。選手の能力を図る最も簡便な物差しは出場試合数やゴール数などの数字による結果だが、これらをベースにトップ登用を求める意見はナンセンスとまでは言わないものの、視野狭窄とは言わざるを得ない。さらに言えば、能力は結果に対する必要条件に過ぎず結果は必ずしも能力を反映しない。

 チャロバも、ついで言うならモーゼスもローン先で出場機会に恵まれたわけではなかった。彼らは自分の能力がチェルシーでやるに値すると信じ待ち続け努力したからこそ『しかるべき時、しかるべき場所』をチェルシーで迎えられたのだろう。だからこそチャロバの言葉が本当に印象的だった。ベストを尽くし続け成り行きを見守るというのもまた地に足付けている感じがして好感が持てる。


 能力を前提としたうえで本人が信じ待ち続け、努力を怠らないこと。これが揃って初めて『しかるべき時、しかるべき場所』をチェルシーのトップチームで迎えることができるのだなと改めて考えさせられた。まさに「人事を尽くして天命を待つ」だ。


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 最初に断わったように、まだまだ序章に過ぎない。かつてのジョシュやレアルマドリーのヘセのように怪我で全てが一変することだってままある。それでも、今は彼の努力を讃え素直に1ファンとして喜びたい。

 チャロバ、トップチームデビューおめでとう。



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