2015年5月28日木曜日

チェルシーの育成について考えてみた。 Vol.2

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 Vol.1では選手育成を行う上での環境面の難しさについて述べた。だが、そもそもチェルシーは「育てないクラブ」なのだろうか。
 チェルシーの育成部門はここ数年、確実に成果を上げている。U21プレミアリーグでは現行のシステムとなった13/14シーズンで優勝、今季も優勝争いを繰り広げた。FAユースカップでも09/10、13/14、14/15シーズンで優勝しただけでなく、決勝進出は4シーズン連続、準決勝進出となれば6シーズン連続だ。国内だけでなく、13/14から導入されたUEFAユースリーグにおいても、初年度はベスト8、14/15シーズンでは優勝と欧州の舞台でも目に見える結果を出している。
 この中で特筆すべきは、FAYCにおける成績の継続性だ。世代が変わってもしっかり結果を残していることは、組織として育成がうまく行われていることを証明している。
 さらに、テレグラフによる The top 35 hottest prospects in English football という特集ではチェルシーから最多の5人が選出された。また、最新(5/25時点)の世代別イングランド代表に関しても、チェルシーからは計19人と最多の招集人数を誇る。
 
CFC
MCFC
MUFC
AFC
THFC
LFC
U21(5/20)
3
0
1
2
4
0
U20(3/20)
2
0
0
1
0
0
U19(3/17)
4
4
0
0
1
0
U18(3/18)
3
1
0
1
3
1
U17(4/23)
2
0
0
2
1
2
U16(3/13)
5
2
0
3
3
0
Total
19
7
1
9
12
3
表:主要クラブにおける最新の育成年代の招集人数

 ただ、この数字はあくまで現所属の人数であり、○○ユース出身といった情報が反映されないことは留意されたい。とはいえ、チェルシーは外から青田買いばかりしているのかと問われれば、答えは否だ。優勝したUEFAユースリーグ決勝のスタメンでは、5人が生え抜き、さらに8人がU13からチェルシーに所属している。中でもEngland Youth Player of the Year に今シーズン選ばれたFWドミニク・ソランキや、来シーズンからトップチーム昇格が決まったMFルベン・ロフタス=チークの2人に至っては、共にU8からチェルシーでプレーする選手だ。

 こうして見ると、チェルシーは育成部門にもしっかりと力を注ぎ、それが結果にも表れてきていると分かる。「チェルシーは育てないクラブ」というのは、限定的な知識のみで形成された誤った印象論にすぎない。むしろ、取り沙汰されるべき問題は、育成された若手や将来を買われチェルシーに移籍した若手がトップチームに反映されないということなのだ。


 では、なぜこうしたアカデミーの素晴らしい成果がトップチームのスカッドに反映されないのだろうか。ビッグクラブとしての立ち振る舞いやチェルシーのトップチームが求める水準など、いくつかの理由はVol.1でも述べたが、ここでは異なる視点で考える。
 それは、イングランドにおけるBチームのあり方についてだ。現時点ではU21のチームがこれに該当するのだが、問題はU21プレミアリーグという独立したコンペティションに属しているということである。現行のシステムでは昇降格も存在し、真っ当なリーグ戦が構成されているように見えるが、世代で区切ることで対戦相手は似たようなレベルの選手ばかりとなり(調整という名目でビクトール・バルデス、ロビン・ファン・ペルシー、ラダメル・ファルカオを同時に並べてくるとんでもないチームもあるのだが)、大差のない選手間またはクラブ間での争いになってしまう。
 これに対して、スペインではレアルマドリー・カスティージャやバルセロナBのように、Bチームが2部や3部といったリーグ戦の中で切磋琢磨している。オランダでも試験的にアヤックス、PSV、トゥエンテの3クラブがBチームを2部リーグに参加させている。イングランドで言えば、Bチームがチャンピオンシップやリーグ1に所属していることになるわけだ。下部リーグとはいえ、所属する選手はそれぞれ育成年代を勝ち抜けた選手や実力を請われた外国人であり、大差ない選手ばかりで構成されたリーグとはまるで環境が異なる。加えて、その環境の中でクラブの命運がかかった昇格降格が伴うシーズンを過ごすわけだ。得られる経験値には目に見えて差が出るだろう。だ。
 実際、レンタルで下部リーグへ武者修行に出ている選手は口をそろえて「ユースカテゴリーとシニアの試合は全くの別物だ」と言っている。シニアの世界では、そのクラブの存在が生活に組み込まれたサポーターが存在する。クラブだけではなく、選手たちにとっても1試合、1プレーがそのままサラリーや契約という形で自らの生活に直結する。フットボールをするということの1選手にとっての重みがまるで違うのだ。
 さらに、2部や3部にBチームが所属することで、経験を積ませる目的でのレンタルを避けられるというメリットもある。チェルシーでは昨シーズンU21の主力だったルイス・ベイカーやジョン・スウィフトなどが今シーズン下部リーグにレンタルされているが、これが不要になる。このことが生み出す利益は多い。レンタルには借り手のクラブの事情により、出場機会が確保できないリスクが存在する。例えば、トーマシュ・カラスは今季前半戦はケルンにレンタルされたが全く出番が与えられず、2部のミドルズブラへ再レンタルとなった。Bチームが下部リーグに所属していれば、こうしたリスクや失敗を回避できるうえに、出場機会の調整も自分たちで行えるわけだ。また、選手の視察も容易になる。トップチームの試合がない日ならば監督がホームスタジアムに行くだけで目当ての選手の視察が可能だ。さらには、ホームグロウンの面でも非常に大きな意味を持つ。Bチーム所属ということは当たり前だがチェルシー所属ということであり、その間にホームグロウンステータスを獲得できる。CLや新ホームグロウンルールで重要となるクラブ育成枠(21歳までに3年以上そのクラブに所属した選手)にも自然に該当するようになる。チェルシーやマンシティが登録枠で頭を悩ます一方で、毎シーズン同様に莫大な資金で補強を繰り返すレアルマドリーがCLのクラブ育成枠で苦労しないのもカスティージャの存在のおかげだ。
 FAは育成を重視するのならば、早急にBチームを下部リーグに参加させるべきであろう。チャンピオンシップをはじめとする下部リーグにも歴史はあり、色々と障壁はあるのは間違いない。しかしながら、現行のU21プレミアリーグでは限界を感じざるをえない。

 さて、若手選手とクラブの未来を考えた時、チェルシーが目指すものは何であろうか。有望な若手を多くトップチームに定着させることはもちろん重要だ。しかし、まず我々に求められるのはタイトルだ。今シーズンはFA杯で呆れるほど不甲斐ない敗北を喫したが、COCとリーグの2冠を達成し国内では成功したシーズンだったと言えるだろう。だが、CLではベスト16で敗退しただけでなく試合の内容もお粗末という、不満の残るシーズンだった。来季以降は国内での強さを維持しつつCLで結果を残せるスカッドを構築しなくてはならない。
 そのために求められるのは、現有戦力の上積みだ。選手層が薄いと言われてきた原因はサブメンバーの質の欠乏であり、レギュラーの選手に刺激を与えられる選手が必要なのだ。ボランチではミケルとラミレスが圧倒的にクオリティが足りず、ストライカーではレミーは必要な場面で負傷離脱を繰り返し、ドログバも退団を表明した。他にもクアドラードは冬加入ということを差し引いてもいいところがまるでない。モウリーニョは今季のスカッドを気に入っており誰も放出したくないと言うが、そこに待つのはマンネリだ。彼がレアルマドリーで3年目に失敗した要因の1つが、上積みが3年間で実質ほぼモドリッチのみだったことによる停滞感であることを忘れてはならない。
 この状況下で今後若手がトップチームに割って入るには、上積みとなるレベルの選手になるしかないのだ。そう見なされなかった選手がローン、または売却されるのは残念だが仕方がない。したがって、アカデミーの選手がトップチームに定着するには、ユースチームを卒業した段階でトップチームに通用する実力まで到達するか、ローンでの修行を経て実力を示して戻ってくるしかないだろう。
 ローンでの武者修行を経てトップチーム定着を果たしたのは、現時点でクルトワとズマの2人のみだ。分母の大きさに対してこの少なさには批判もあるが、それほどトップチームに求められるレベルが高いということを示している。加えて、トップチームに還元されなかった選手も売却することでクラブの財政に貢献させたり、獲得したい選手の交渉に組み込みコストダウンさせたりすることも可能だ。チェルシーのローン戦略はこの財政的なメリットが非常に大きく、国内外でビジネスとして称賛、推奨する声も挙がっている。このローン商法に異議を唱える声もよく聞かれるが、断片的な知識による的外れな批判ばかりなので聞き流していればいい。
 もっと言えば、実力が足りずチェルシーと別れを告げることになったとしても、他のクラブで潜在能力を開花させた時に必要ならば再び買い戻せばいいだけだ。マティッチの再獲得がいい例だろう。再獲得のために高額のコストがかかったとしても、必要な補強であれば躊躇う必要などない。「今」を優先してその選手を放出したのと同じように、「今」を優先して再獲得すればいい。相手がレアルマドリーやバルセロナ、PSGでない限りは、チェルシーには再獲得が可能なだけの財力があるのだから。これもまた、チェルシーの強みなのだ。

 長くなったが、結論に入ろう。チェルシーは選手を育てている。これが紛れもない事実だ。しかしながら、最優先すべきはトップチームであり、チェルシーにとって育成とはあくまでトップチームの強化のための一つの手段に過ぎないのだ。チェルシーは育てて勝つクラブではない。勝つために、育成にも力を注ぎつつ、資金力やローンなどフルに活用することで補強と育成を同時に行う。そこで得られたものの中から、その時点での最適解をトップチームに反映させる。これがチェルシーのやり方なのだ。将来的には新ホームグロウン制度などにより育成により比重を置く必要が出るだろうが、その時はその時で同様に最適解を見つければいいだけの話である。
 全てを追い求めても、その全てが得られることはまずない。だからこそ、優先順位を付け、最も重要なものは何なのか、それを見失ってはならないのだ。選手を中心にして考えれば感情的な意見が出てもおかしくないが、あくまで優先されるのはクラブということを忘れてはならない。

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 結論を述べた上で最後に、私自身の希望を少し。モウリーニョは遠くないうちに契約延長にサインする。今の彼はチェルシーの現在だけではなく未来をも見てくれている。私がそう感じたいだけなのかもしれないが。例えば、2014年の夏には "I have this feeling that our academy is bringing players to our level."  述べており"My conscience tells me that if, for example, Baker, Brown, and Solanke are not national team players in a few years, I should blame myself." とも述べている昨シーズンのリヴァプール戦、白旗だとか2軍だとか言われ放題の11人で臨んだ試合では、Timesのオリバー・ケイは「理由が何であれ、チェルシーの監督が若手を抜擢すること自体さえ新鮮に思える。この数年ありえなかったことだ。」と語った。そのチェルシーでモウリーニョは、カラスやアケ、ベイカー、ロフタス=チーク、ブラウンらに少ないながらチャンスは与えた。普段の練習にはソランキやチャーリー・コルケット、ジェイ・ダシルバ、カイル・スコットなど少なくないユースの選手を参加させている。ファンに愛されるモウリーニョが長期政権の実現に成功すれば、今とは異なる、もう一歩進んだチェルシーが見られるのではないだろうか。淡い希望であることを自分で認めながらも、私はそう夢見ている。

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