チェルシーのローン戦略といえば、海外の有望の若手を格安で購入しローンで回しながら、市場価値が数倍になったところで売却して利確するというイメージを未だに抱いている人が多い。しかし、それはもはや時代遅れの認識だ。今、そのビジネスモデルを用いているのはマンシティやワトフォードといった、独自のフットボールネットワークを持つクラブが主である。
現在のチェルシーのローン戦略は、自前のユースで育てた若手たちのために、ユースとトップチームの架け橋としてローンを使うというものに移行した。昨季、チェルシーは49人もの選手をローンに出したが、そのうち29人がチェルシーとユース契約を結びユースで育てられた選手だ。今シーズンにおいても、28人中15人が18歳になるまでにユースを経験した選手だ。更に付け加えるなら、今季トップチームにローンバックされた7人のうち4人が生え抜きである。
これに加えて、今季は新しい戦略が導入された。その該当者は、ザッパコスタ、ドリンクウォーター、バカヨコの3選手だ。この3選手はみな昨季トップチームにいた選手であり、ランパード新監督によって今季構想外となった。年齢も若くなく、ローンではなく完全移籍で売却されるだろうと考えていた人も多いはずだ。
photo: football.london |
だが、このタイミングで彼らを売却しようとした時、ある共通の問題が生じてしまう。それは、彼らはみな獲得時よりも市場価値を大きく落としてしまっているということだ。チェルシーは、ザッパコスタに2500万ユーロ、ドリンクウォーターに3800万ユーロ、バカヨコに4000万ユーロと多額の移籍金を費やしており、クラブは少しでもこの支出を回収したいと考えている。そのため、クラブには売却前にこの大幅下落した彼らの市場価値を少しでも高める必要があった。
構想外の選手の市場価値を高める、矛盾した考えのようだが、チェルシーにはトップチームでプレーさせずに選手の価値を向上させるメソッドがすでに存在していた。買ってきた若手をローン先でプレーさせて利益を生み出していた、かつてのローン戦略だ。それを、青田買いした若手ではなく、トップチームで落第となった1流選手に当てはめたのが今回の新しいローン戦略というわけだ。
構想外になった選手を安値で買い叩かれるのではなく、1年ローンで放出しプレー時間を確保することで市場価値を回復させてから売る。それが彼らが今季ローンとなった大きな理由だ。
分かりやすい具体例がある。コヴァチッチの買取とマウントのローンバックもあり、バカヨコは一時的にプレシーズンに帯同したが早々に構想外となった。そして、バカヨコのローンに対して、古巣であるモナコが早々に手を挙げていた。しかし、彼のモナコ行きが結局まとまったのは8月31日、移籍市場が閉まるギリギリだった。このタイムラグに、チェルシーの意向が見てとれる。
チェルシーがバカヨコのモナコ行きを渋った理由、それはモナコがバカヨコの価値を回復させるクラブとして適切かどうか疑っていたからだ。昨季は成績不振で降格争いをするほどに低迷し、今季のモナコにはCLもELもない。そのモナコが、フランス代表歴があり4000万ユーロの値がついた選手に対する”ショーケース”としてふさわしいだろうか。だが、結局はモナコ以外に魅力的な話がまとまることはなく、市場閉幕ギリギリにモナコ行きで決着した。これが今夏の彼のストーリーだ。
ローンを利用した1流選手の価値の再向上、この新たな戦略が機能すれば今後のトップチームの補強のリスクを軽減することにもつながる。FIFAが新規に導入するとされるローン数制限という壁はあるが、ぜひ機能してほしいところだ。
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と、ここまで書いたが、そうは問屋が卸さなかった。ザッパコスタは、移籍後すぐに前十字靭帯を断裂し実質今季絶望。ドリンクウォーターは極めて下劣で馬鹿げた乱闘騒動を起こし、プレーどころか更に自身の価値を大幅下落させてくれた。2人はともに延長オプション付きの半年ローン契約であり、セットで冬に返品されることが囁かれている。
唯一プレー可能なのがバカヨコで、出場機会ももらえているようだが、クラブが懸念したとおり肝心のモナコが現時点で降格圏から勝ち点3差の14位とやはり低迷している。現実は非情だ。
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