アレシャンドレ・パトがチェルシーで残した成績である。パトは契約満了により6/30付でチェルシーを退団した。これだけ見れば、何をしに来たのと批判の声が聞かれるのも仕方がない。では、なぜクラブはパト獲得へ動いたのか。その正当性について改めて考える。
ストライカーが足りなかった
冬の市場を思い返そう。当時のチェルシーは大不振によりCL権獲得の可能性をほぼ喪失、モウリーニョは去りヒディンクが招聘され、チームのプライオリティはリーグ戦からCLとFA杯へと移った。しかしながら、この状況下でヒディンクにとって計算できるFWはディエゴ・コスタのみであった。ファルカオは10月31日の出場を最後にいつ復帰できるかも分からない怪我が続き、レミーも複数回怪我を繰り返しており、トラオレに至ってはモウリーニョの不遇によって当時は戦力とはみなされなかった状況だった。
そのため、クラブはコスタをCLとFA杯に集中させるためのローテーション要員を緊急に探していた。それも安価で。夏にチームの改革が行われることは必至の状況下で、半年限定のヒディンクにフロントが彼のための選手を獲得する可能性はまずなく、さらに14/15シーズンにおいて£23.1mの赤字を計上したと発表したばかりとあって、巨額の投資をする意思はクラブにはなかった。その中で浮上したのがアレシャンドレ・パトのローンでの獲得だった。
欧州復帰を目指していたパトの代理人による売込みが大きいが、ローンによって移籍金を抑えることができ、さらに週給も£30k(ファルカオの1/4以下!)とチェルシーにとっては安い賃金で実績あるストライカーを獲得できたわけだ。ブラジルでは47試合15ゴール9アシストを記録し復調も囁かれており、この獲得により怪我がちでサスペンションも多かったコスタをターンオーバーできるとクラブは見込んでいた。しかし、ここから良くも悪くも想定外のイベントが複数起きてしまう。
コンディション問題とトラオレの台頭
まず、あまりにもパトのコンディションが悪かった。ブラジルでの最後の出場が10月末だったことからある程度期間が必要なことは分かっていたが、初めてベンチに入れたのが3月とあまりに時間がかかりすぎた。そして、その間にパトを取り巻く環境も変化してしまった。
パトがコンディションを高めている間に、トラオレが台頭したのだ。1/31のMKドンズ戦で途中出場ながら2ゴールを決めたのを皮切りに、一気に居場所を確保した。モウ政権では全く出番に恵まれず計算しづらかった若者がここで一気に戦力化したことで、この時点でパトに用意された”ローテーション要因”の座が揺らいでしまった。もちろん、今後出場した試合で結果を出せていたならばまた変わっていただろうが、ここからさらに状況は悪化する。
CL及びFA杯での敗退
コンディションが整ったパトは3/1のノリッジ戦で初めてベンチ入りを果たす(なおトラオレは先発し1アシストを記録)。一方で、ほぼ同じタイミングでレミーも怪我から復帰しており、いなかったはずのライバルがコンディションを整えている間にどんどん増えていた。パトにとってさらに状況は悪化したが、それでも限られた出場機会でアピールに成功すればまだ望みはあった。
しかし、その望みはすぐに砕かれてしまう。直後のCLでPSG相手に敗退、さらに翌戦のFA杯エヴァートン戦でも敗退し、チェルシーに残されたのはリーグ戦ただ1つだけとなってしまったのだ。ここから先の試合はほぼ週に1回。ローテーションの必要もなくなり、エースであるコスタと将来性あるトラオレのみで充分となってしまった。さらに、クラブはタミー・エイブラハムなどのアカデミー生に出場機会を与えることを決断。こうして、ついにパトはアピールする機会までも失ってしまったわけだ。
以上による結果が、冒頭で述べたパトの成績というわけだ。そして、買取オプションを行使されるはずもなくパトはクラブを去った。
まず第一に、怪我人続出の緊急状態の中ではあったものの、代理人の売り込みに飛びついたクラブのアセスメント不足は責められるべきだろう。ただ、なぜ獲得したのかという問いには、当時はストライカーがおらず緊急補強が必要だったという答えが存在する。そのうえで、パトが何もできなかった、というのが正しい。コンディション不良の選手を売り込む側にも問題はあるが、選手を売り込むのが代理人の仕事であり移籍した後はもう選手本人の問題だ。もっと言えば、パトを獲得せざるを得ない状況に追い込んだレミーとファルカオにも責任の一端があるだろう。特にファルカオなんて全53試合のうち28試合(!)も戦列を離れていた、とても戦力と言えたもんじゃない。
パトにとって、すべてのめぐり合せが悪い方向へ向いてしまった。コンディションの悪さというパト自身の問題も大きかったが、パトの依らない部分までもがパトにとって悪い方へと流れた。一言で言えば、持ってなかったなあ、というのが個人的な感想だ。とはいえ、まだ26歳。まだまだチャンスはあるだろうし、もう一花は咲かせてほしいと思う。
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